大判例

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神戸地方裁判所 昭和28年(行)1号 判決

原告 株式会社丹陽組

被告 篠山税務署長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二七年一月一一日原告に対してなした別紙記載の法人課税所得金額の更正決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、「被告は昭和二七年一月一一日原告に対し別紙記載のような更正決定をなしたが、右更正の理由とするところは、原告の当該事業年度の決算中に、訴外株式会社西村家具店に対する実際仕入金額が金四七六、二二〇円であるのに、決算書には金六七六、二二〇円として計算されているから、原告の実際の所得金額は決算書記載額より金二〇〇、〇〇〇円増加するというのである。然しながら原告がこのような記帳をしたのは左記の事情に基くのであつて、しかも差額金二〇〇、〇〇〇円は訴外有限会社摂丹工務店(以下単に摂丹工務店と称する)に支出してあるから、被告の言うように原告の所得がそれだけ増加するものではない。すなわち原告は昭和二三年一二月二〇日兵庫県から篠山農科大学の改造工事を金五、五〇〇、〇〇〇円で請負つたが、特に竣工期が翌年一月七日までと定められて急速を要する工事であつた。そこで多紀郡町村会長山口房次郎より竣工期が遅れることのないよう前記摂丹工務店にも仕事を手伝つて貰つてはどうかとの勧告があつたので、原告はやむなくこれを承諾し、同工務店と共同で施工することゝした。然るに間もなく原告と同工務店との間に工事施行上意見の相違を来したゝめ、原告は山口房次郎の仲介により同工務店との共同施工を解消して原告単独で工事を進捗することゝし、その退き料として金二〇〇、〇〇〇円を同工務店に支出した。その際原告は、当時現職の兵庫県々会議員たる摂丹工務店代表者訴外野々口嘉久馬の名誉を慮り、摂丹工務店への支出を前記の通り西村家具店への支出の如く記帳したのであつて、右金二〇〇、〇〇〇円は、原告が同工務店との間になした共同施工の約束を破棄するにつきその損害賠償金たる性質を有するから、法人税法上いわゆる損金にあたるものである。従つて原告の所得は被告のいうように増加にならないから、原告は前記更正決定に対しこれを不服として適法に再調査及び審査請求をしたが、いづれも棄却されたので右更正決定の取消を求めるため本訴に及んだ。」と述べた。(証拠省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として「被告が原告主張の日に主張のような内容の更正決定をなしたこと、原告が右更正決定に対し適法に再調査及び審査請求をなしたがいづれも棄却されたこと、被告が右更正をした理由が原告主張のような事由に基くものであることはこれを認める。しかし原告の西村家具店への金二〇〇、〇〇〇円の架空支出は、野々口嘉久馬に対する支払(実際の支払金額は金三五〇、〇〇〇円である)とは関係がなく、その使途不明というべきである。仮に右が野々口に支払つた前記金三五〇、〇〇〇円の一部であるとしても、野々口と原告との深い関係、すなわち野々口はかつて原告会社の社長で本件工事当時も取締役であり、原告会社々長時代に摂丹工務店の前身たる野々口組を他に経営しているような事情からみて、野々口が原告の損失において自己の利得をはかるとは考えられないから、本件金員は原告主張のような目的で支出されたとは認められない。又右金員は野々口個人が受領費消して摂丹工務店ではこれを受入れた事跡がないから、右は法人税法上野々口に対する賞与に該当することはあつても、原告のいわゆる退き料であるとは認められない。従つて、原告において他に本件支出が原告の営業に関してなされたものであることを明かにしない以上、本件二〇〇、〇〇〇円の支払は法人税法上総損金に算入さるべきではなく、利益の処分とみるのが相当であるから、右金額を原告の所得に加算してなした本件更正は正当である。」と述べた。(証拠省略)

三、理  由

成立に争いのない乙第五号証、証人槇田哲男の証言により真正に成立したものと認める乙第三号証に証人野野口嘉久馬(一、二回)同槇田哲男、同稲山栄太郎、同小島幸太郎の各証言及び原告代表者羽田要太郎本人尋問の結果(以上の各証拠中後記認定に反する部分は措信できない)を綜合すると、原告は昭和二三年一二月頃、兵庫県から篠山農科大学の改造工事を金五、〇〇〇、〇〇〇円で請負つたが、竣工期が翌年一月早々と定められて急速を要した関係で、訴外摂丹工務店と共同で工事を行うことゝした。然るにその後間もなく資材関係の都合のため、訴外野々口嘉久馬の仲介で共同施工を解消することゝなつたこと、昭和二三年一二月二三日頃、原告代表者羽田要太郎より野々口の代理人槇田に対し現金二〇〇、〇〇〇円、次で同年内に野々口本人に対し現金一五〇、〇〇〇円、合計金三五〇、〇〇〇円を交付したこと、(その目的、性質は暫くおく)、原告は訴外西村家具店に対し右工事に関係して四六〇、〇〇〇円余相当の家具類を注文し、同年一二月二三日手附金二〇〇、〇〇〇円を交付して同店より同類の領収証を受取り、残額は同年内に完済したところ、同店の手違いにより右手附金額を差引かない売買合計額四六〇、〇〇〇円余の領収書の交付を受けたゝめ、同店に対し差額金二〇〇、〇〇〇円の架空支出を生じたことをそれぞれ認めることができる。原告は右架空支出を利用して、前記野々口に対する金三五〇、〇〇〇円の支払のうち金二〇〇、〇〇〇円を、右西村家具店への支出にあてた如く処理記帳したと主張するけれども原告会社代表者本人の供述によると右本件二〇〇、〇〇〇円は支出当時は借出金として処理したことが認められ、その後原告主張のように記帳されたことについては原告から立証を尽されていない。

なお原告は右金二〇〇、〇〇〇円は共同施工の約束破棄に伴う損害賠償の性質を有するから損金だと主張するので案ずるに、前記証人野々口(一回)の証言及び原告本人尋問の結果によると、野々口はもと原告会社の社長と摂丹工務店の代表者とを兼任し、本件共同施工解約当時も原告会社の取締役であり原告会社の事業について相談役的な地位にあり、他方摂丹工務店の有限責任社員であつたこと、摂丹工務店の現代表者槇田哲男はもと原告会社に勤務していたのを、野々口が同工務店代表者を退くに際し後任として代表者に迎えたものであるが、同工務店の実権は依然として野々口が握り、同人の個人の店といつてもよい程であたつこと、がそれぞれ認められる。そうすると原告会社と摂丹工務店とは一応別個の法人ではありながら野々口を中心として極めて密接な関係に結ばれており、さればこそ前記の通り両者間で共同施工を約したものと考えられ、このような関係からみて、共同施工解消につき特に違約金を授受することはいさゝか肯認し難いところである。その上野々口が原告より受領した金三五〇、〇〇〇円(本件二〇〇、〇〇〇円を含む)が摂丹工務店に入金された事実については、法人の金銭出納であるからには立証は容易なはずであるのに、この点に関する前記証人野々口(一、二回)同槇田の証言はあいまいではつきりせず、その他これを認めるに足る明確な証拠もなく、又成立に争のない乙第一、二号証によると原告は本件更正決定に対する再調査請求においては、自己の収支計算が正当であると主張するのみで前記架空支出については何も触れず、審査請求において始めて右の事実を認めながら、建築業者のいわゆる談合金であつて支払先を明記できないと主張してきたことが認められ、本訴においてはこれを損害賠償金であると更正するなどその主張に首尾一貫を欠いている。これらの事実を併せ考えると、原告が野々口に交付した金三五〇、〇〇〇円がいかなる意図で支出されたものかは暫くおくとして、少くとも原告主張の如き損害賠償金たる性質は有しなかつたものと認めるのを相当とする。(右認定に反する証人野々口(一、二回)、同槇田、同稲山栄太郎の各証言及び原告代表者本人尋問の結果はたやすく措置できない)

そうすると原告において他に野々口に交付された本件金二〇〇、〇〇〇円が原告会社の営業に関し支出されたことを立証しない限り、右支出は法人課税標準計算上総損金に算入すべきでなく、利益の処分とみざるを得ないから、右金額を原告の所得に加算してなされた被告の本件更正は結局正当である。よつて原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石田哲一 中村友一 藤野岩雄)

(別紙省略)

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